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美肌ラボおすすめ皮膚科ドクターより

お肌のお話
これからのニキビ治療
~日本のニキビ治療が変わります~
あおよこ皮膚科クリニック 院長 田嶋徹
  あおよこ皮膚科クリニック
院長 田嶋 徹先生

一昔前まで「ニキビは青春のシンボル」と言われ、病気という認識を持つ人は少なかったと思います。実際ニキビができてしまっても、「ちゃんと顔を洗ってないんじゃないの?」とか、「クレアラシルでも塗っておけば?」という感じで、軽く扱われた経験をお持ちの人も多いと思います。確かに思春期ごろのニキビは一時的なもので、よほど症状が重症化しない限り、大部分の人では二十歳を過ぎれば痕も残さず治ってしまいます。ところが、近年では食事や生活習慣の変化、ストレス社会の影響などによりニキビが重症化したり、大人になっても治らない、あるいは大人になってから発症して症状が長引く人が増えてきました。ニキビは外見上の問題ですが、人に見られる部分に症状が現れ、それが長引くことから精神的な苦痛を伴います。ニキビがあることでお洒落ができない、外出を控えてしまう、人と会うのが億劫になってしまう、仕事に身が入らないなど、日常生活に支障をきたす可能性もあります。そのような背景から今、ニキビは病気であるということ、病院で治療を受けられるということ、日本のニキビ治療が変わりつつあるということを皆さんに知って頂きたいと思います。
ところで、一般に「ニキビ」と「吹き出物」は別の病気のように扱われていますが、これらはいずれも正式には「尋常性ざ瘡」という同一の疾患です。

ニキビってどんな病気?
ニキビ(尋常性ざ瘡)とはどのような疾患なのでしょうか、

【正常な毛穴の状態】
毛包:いわゆる毛穴のこと。
皮脂:皮膚の表面を覆って皮膚を乾燥から保護し、外界からの有害物質の侵入を防ぐ作用がある。皮脂は皮脂腺で分泌され、毛包を通って皮膚の表面に排出される。
皮脂腺:毛包に付属する皮脂の分泌腺。

正常な状態では、皮脂腺において適度な量の皮脂が分泌されていて、毛包にもは詰まりが無く、皮脂は滞ることなく皮膚の表面に排出されています。ニキビはこの皮脂の排出が滞ることから生じてきます。

【Level1:面靤の形成】
初期には主に脂漏部位(前額や鼻周囲、下顎など:いわゆるTゾーン)に小さな白いブツブツができてきます。この白いブツブツは、毛孔(毛穴の出口部分)が閉塞し毛包内に皮脂が貯留したもので、面皰(めんぽう)と呼ばれます。
面靤を生じる原因は、皮脂の過剰分泌と、毛包漏斗部(毛穴の開口部付近)の角化異常による毛包の閉塞(過剰な角質が作られることによって毛穴が塞がってしまう)です。

【Level2:毛包周囲の炎症】
毛包の中には元来、ニキビの原因となるアクネ箘を含む多数の微生物が生息していますが、毛孔が閉塞して毛穴に皮脂が貯留した状態になると、その中で微生物が異常に増殖してきます。特にアクネ箘が増殖してくると、この菌により炎症を誘発する物質が産生され、毛包の周囲に炎症が起きてきます。
肉眼的には、毛穴に一致して面靤よりも大きな赤いブツブツ(紅色丘疹)ができてきます。その一部には毛包内に膿が溜まって、赤いブツブツの先端が黄白色になった膿疱を生じてきます。

【Level3:炎症の増強、遷延】
毛包周囲の炎症により、毛包の壁が破壊されると、アクネ菌により作られた各種炎症誘発物質が毛包外に排出され、更なる炎症の悪化を来たします。赤いブツブツは大型化し、ひどくなると大きな膿の溜まり(膿瘍)やしこり(結節)になってきます。

【Level4:ニキビ痕】
やがて病気の勢いが収まると、面皰は痕を残さず消えてしまいますが、紅色丘疹や膿疱は平坦化した後もしばらく赤い痕が残ります。数週間の経過で赤みは消えますが、一部はシミのような色の色素沈着を残します。この色素沈着も数週間~数ヶ月で徐々に薄くなり、やがて消えていきます。
大型化、重症化した発疹は炎症が落ち着くまでにより時間を要します。大型の紅色丘疹や膿疱、膿瘍は数週間の経過で平坦化してきますが、治った痕が瘢痕(はんこん)という硬い組織に置き換わってしまうために、硬いしこりが残ったり、クレーター状に窪んでしまうことがあります。一度瘢痕になってしまうと、それが軟らかく元の皮膚の固さに戻るのには非常に長い時間(数ヶ月~数年以上)を要します。また、深い窪みは消えずに残ってしまいます。

このような変化は、ホルモンバランスの異常や、ある種の薬剤、化粧品、ストレス、発汗、皮膚の乾燥、ビタミン欠乏、不規則な生活習慣、食事のアンバランス、脂肪や糖分の摂りすぎ、皮膚を擦ること、手で触ること等、さまざまな要因の複合的な影響により生じます。単一の原因により生じることは稀ですので、すべての原因を明らかにして対策を講じることは困難を伴います。
実際のニキビの症状というのは、Level1からLevel4の段階が様々な程度で混在しています。そのことがニキビ治療を複雑にし、一筋縄では行かないことの理由の一つです。

ニキビ治療のポイント
ニキビ治療のポイントは次の3点に集約されます。
1. 面靤の抑制…ニキビ予防
2. 炎症の抑制…ニキビを重症化させないで、早く治す
3. 瘢痕、色素沈着の治療…ニキビ痕の治療

このポイントに分類して、代表的な治療を示します。
1. 面靤の抑制
● イオウ製剤:イオウカンフルローションクンメルフェルド液など
● ホルモン薬:低用量ピルジオールなど
● ビタミン薬:ビタミンB2B6など
レチノイド:後述のように、日本では市販されていません。
ケミカルピーリング
2. 炎症の抑制
● 抗生物質の飲み薬:ミノマイシンビブラマイシンルリッドなど
● ビタミン薬:ビタミンCEなど
● 抗生物質の塗り薬:ダラシンTゲルアクアチムなど
● 非ステロイド系抗炎症薬の塗り薬:スタデルムクリームなど
光治療:スムースビーム、ブルーライト、PDT(Photo dynamic therapy)など
3. 瘢痕、色素沈着の治療
● ビタミン薬:ビタミンCEなど色素沈着に有効
ケミカルピーリング
光治療
(2008年8月現在、赤色は保険適応あり、青色は保険適応なし)

日本のニキビ治療は遅れている!
日本のニキビ治療は、世界の標準治療に比較してたいへん遅れています。どのような点で遅れているかというと…
● 治療の選択枝が少ない
海外ではレチノイドという強力な面靤抑制作用を有する薬物が市販されています。このレチノイドがニキビ治療の第一選択薬として使用されていますが、皮膚に対する刺激性が強いことや、若い女性に対しては催奇形性(動物実験で奇形児が生まれる危険性が分かっている)の問題から、これまで日本では市販が認められませんでした。
● 医療機関で治療を受けられるという認識が一般に浸透していない
現在のところ、医療機関を受診するニキビ患者は全体の10% 程度に過ぎず、治療への満足度も高くない、と言われています。医療機関で治療を受けられることの啓蒙がされていないことと、これまでニキビ治療の選択枝が少なかったために治療満足度が低かったこと、テレビのコマーシャルなどの影響でニキビは大衆薬で治すものというイメージがあること、などが影響していると思われます。

現状における日本のニキビ治療は、抗菌薬を使用して炎症を抑える治療が主体となっていて、効果的に面靤を抑制できる治療がない状況です。治療の選択枝が少ないためにニキビ治療に抗菌薬が多用されてしまうと、抗菌薬の効きにくい菌が生き残ってしまう耐性菌の発生が問題になります。
瘢痕や色素沈着に対する治療に関しては、医学的に効果が証明されている治療法はほとんど皆無で、医療機関ごとに試行錯誤しながら治療を行っている現状です。そこには、営利主義で治療効果が不確かな方法を取り入れている一部の不誠実な医療機関やエステ、民間療法が暗躍してしまう余地が残ってしまっています。
このように、これまでの日本のニキビ治療の状況は望ましいものではありませんでした。

ニキビ治療のトピックス
このような状況の中で、ようやく日本のニキビ治療が世界標準に近づく第一歩となる新しい薬物が発売される見込みとなりました。2008年秋に本邦初の面皰抑制作用を有する薬剤アダパレン(商品名:ディフェリン)が市販される予定です。まだ世界標準からすると使用できる薬物の選択枝が少ない状況に変わりはありませんが、この薬剤の登場により日本のニキビ治療はバリエーションが広がり、既存の治療で十分な満足が得られなかった患者に対しても新たなアプローチが可能となります。


【資料】ガルデルマ株式会社プレスリリースより抜粋
ガルデルマ株式会社(本社:東京都新宿区、代表取締役社長:ウンベルト・C・アントゥネス)は、2008年7月16日、新有効成分アダパレンを含有する外用尋常性ざ瘡(ニキビ)治療剤 「ディフェリン(R)ゲル0.1%」の製造販売承認を取得しましたのでお知らせいたします。
ディフェリン(R)ゲル0.1%はガルデルマ社が開発した、レチノイド様作用を有するナフトエ酸誘導体アダパレンを有効成分とする、尋常性ざ瘡(ニキビ)治療の外用剤です。
アダパレンが表皮細胞の核内レチノイン酸受容体(RAR: Retinoic Acid Receptor)に結合し、毛包上皮細胞の分化を抑制することで、ニキビの前段階である微小面皰と非炎症性皮疹(面皰:通称黒ニキビ、白ニキビ)の形成を抑制し、その後進展して出来る炎症性皮疹(通称赤いニキビ)も減少させます。
本剤は、ガルデルマ社によってすでに欧米80カ国以上で承認取得・販売されており、1995年にフランスで発売されて以来、延べ2,200万人の患者さまに使用されています。日本での臨床試験は、尋常性ざ瘡を対象とした試験としてはこれまでで最大の規模で、第II相臨床試験に238名、第III相臨床試験では644名の患者さまにご参加いただきました。尋常性ざ瘡を適応とする外用レチノイド製剤としては、日本で初めての製造販売承認取得となります。
<製品概要>
◆ 製品名 :ディフェリン(R)ゲル0.1% (Differin Gel 0.1%)
◆ 一般名 :アダパレン (Adapalene)
◆ 効能・効果 :尋常性ざ瘡
◆ 用法・用量 :1日1回、洗顔後、患部に適量を塗布する
◆ 組成・性状 :アダパレン0.1%を含有する白色ゲル状軟膏
◆ 製造販売承認日 :2008年7月16日
取材協力:皮膚科専門医 あおよこ皮膚科クリニック 院長 田嶋徹先生
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